音楽の生まれる場所、
心が通う場所、地下スタジオ

ムカエレコードの地下にある音楽スタジオは、大分県豊後高田市にある製線工場を借りてセットを建て込んだ。階段を降りると広がる地下室には、ピアノ、ドラム、ウッドベースがあり、所々剥がれたレンガの壁からは年季のある建物であることがわかる。そして居心地がいい。俳優たちは空き時間、決まって地下スタジオのセットでくつろぎ、スタンバイ中にセッションが始まることもあった。律子の父・勉役の梅雀がベースを弾き始めると、中川のドラムが加わり、ディーン・フジオカのトランペット、知念のピアノが加わる──この工場に作られたセットの撮影期間中は、そんなふうに演奏シーンの練習風景が現場を潤わせていた。演奏を見守る立場の律子を演じた小松は言う。「みんなで演奏するシーンを初めて見て鳥肌が立ちました。私は演奏を聴いている側、特等席でした」。知念と中川は、撮影の何ヶ月も前からピアノとドラムのレッスンを始め、課題曲を修得しなければならなかったが、観客にセッションを楽しんでもらうには「まずは自分たちが楽しまなければ伝わらない。セッションの楽しさを感じることのできた本当に楽しい時間だった」と中川は語っている。音楽ものの映画では演奏シーンは吹き替えということもよくあるが、プロデューサーは「みんなの演奏が素晴らしいので吹き替えは用意していない」と俳優を信じ、託し、「『ラ・ラ・ランド』や『セッション』にも負けていないと思う」と手応えを感じていた。
もう1つ見どころとなるセッションシーンが、長崎のジャズバーの淳兄と奏でるセッションであり、長崎市のライブハウスTin Pan Alleyで撮影された。ディーン・フジオカが歌う「バット・ノット・フォー・ミー」は素晴らしく、その現場にいた全員が聴き入る。淳兄の存在が薫と千太郎を刺激していく、何とも贅沢なシーンがカメラに収められた。劇中で薫たちが演奏する曲目は「モーニン」「いつか王子様が」「マイ・フェイヴァリット・シングス」「バット・ノット・フォー・ミー」など名曲が揃っている。