本物の昭和の町並みに作った
ムカエレコードの店舗

物語の舞台となる昭和の街並は大分県豊後高田市にある「昭和の町」で撮影された。昭和の町とは、商店街が元気だった最後の時代──昭和30年代の活気を蘇らせようと平成13年に立ち上げられた町で、一足早く公開された『ナミヤ雑貨店の奇蹟』もこの町で撮影されている。今回『坂道のアポロン』の撮影では、電気屋の店舗を全面的に改装してムカエレコード店を作った。集めたレコードの数は5000枚に及んだ。中川はその商店街をカブに乗って走るシーンがあるが「本当にタイムスリップしたかのようで、テンションが上がった」と、貴重な体験だったことを語っている。薫が律子を電話でデートに誘うシーンも昭和の町で撮影した。携帯もスマホもない時代の赤い公衆電話。10円玉を何枚も用意して、律子の家、ムカエレコードに電話をかける薫。知念は片想いのドキドキの緊張感を、声を浮つかせたり、息づかいを変えたりしながら繊細に演じていた。律子と会う日にちを決め「……ああ。いいよ、もちろん」と言葉は淡々としているが、気持ちとしては飛び跳ねるほどの嬉しさ。台本のト書きにある“小さくガッツポーズをする”という芝居を、知念は何ともチャーミングに演じてみせた。撮影は5月の下旬だったが、その日は夏のような汗ばむ暑さで、暑さと疲れを吹き飛ばすためなのだろう、三木監督は撮影の合間に「アイスじゃんけんをしよう!」とスタッフ&キャストに声をかけ、現場を盛り上げていた。