文化祭での刺激的にして
感動的なセッション

「特別な2日間」「大勝負のシーン」だと、知念も中川も三木監督も全員が緊張感を持って臨んだのは、文化祭のステージだ。エキストラは400人、撮影のカット数は2日間で70カット、いつも穏やかに映っていた三木組に、いつもと違う緊張感が漂っていた。しかしながら、いい緊張感だ。薫と仲違いをしてロックバンドのドラムとして文化祭に参加する千太郎だが、突然の停電によって薫とのセッションが始まる。演奏シーンの撮影は、事前にレコーディングされた音源に合わせて二人が演奏する風景を撮影していく。カメラが回るギリギリまで何度も指使いなど確認し、さらに、ピアノだけのカット、ドラムだけのカットを撮影している間も、必ずお互い演奏に参加し支え合う姿があった。ゼロから始めたとは思えない、その演奏シーンの完成度にシビれる。知念は10か月前からピアノの練習を始めたそうだが、楽譜が読めるわけではなく、耳でメロディを、目でピアノ指導の先生の指の動きをコピーして反復練習することで習得した。「最近は好きな曲を趣味で弾いたりもしているので、もっと上手くなったら、いつかライブで見せられたらいいですね」(知念)。中川にとっても死闘の日々だった。「体はきつかったけれど、極限状態でしか出せない自分の限界の先が出せた気がします。後悔なく思いっきり出し切れました」と、何ヶ月もの練習の成果を本番でしっかり出した。演奏はもちろん俳優としてもプロフェッショナルな姿勢をみせた。そして、二人のセッションは「マイ・フェイヴァリット・シングス」から「いつか王子様が」、最後に「モーニン」へと移っていく、その瞬間の観客のざわめきにこちらもゾクッとする。演奏時間は約5分間。もちろん手元も撮る。吹き替えはいない。約5分間のセッションを終えた後に体育館に響き渡った拍手は、演出による拍手ではなく、本物の感動の拍手だった。このシーンは薫と千太郎の和解のセッションであると同時に、二人をずっと見守ってきた律子の気持ちも重なり合う、三人のセッションでもある。小松は「難しいお芝居なので、どう演じたらいいのかずっと悩んでいましたが、二人が頑張って練習している姿を近くで見てきたので、自然と感情が動かされていました」と語るように、そのシーンの律子のセリフ──「マイ・フェイヴァリット・シングス……」そのひと言を口にした後の小松の瞳は、優しい笑顔と涙でいっぱいだった。